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Laura –

2012.10.14 「非正規公務員」上林陽治著 衝撃的な就労実態

最近話題になっている「雇い止め」や「ワーキングプア」は、経営の悪化に直面した民間企業によるリストラの結果だと思われがちだ。ところが、その背後にある非正規雇用の問題は民間企業に限ったことではないと指摘するのが本書の趣旨である。業績改善とともに雇用も増える民間企業と異なり、売上や利益とは無縁な行政機関だけにこの問題はやっかいだ。

本書で紹介される非正規公務員の就労実態は衝撃的だ。現在、国家公務員の2割にあたる約7万人が非常勤である。そのなかにはハローワーク相談員も含まれ、「明日は我が身」の思いで窓口業務を行っているという。地方自治体の実態もすさまじい。公立図書館ではすでに6年前から非正規職員が専任を上回る状態が続いている。専任が2年ほどで職場を転々とするのに対し、非正規は契約更新で同じ職場に勤め続けるため、数年後には専任より現場の仕事内容に習熟するという。また、消費者安全法の施行により設置された消費生活センターの相談員は非正規だが、再任用を繰り返すうちに知識と経験を積み重ね、もはやこの相談員なしには業務が行えない状況になっているそうだ。

仕事の専門性は専任をはるかに上回っているにもかかわらず、非常勤の給与は専任の3分の1以下で、長年勤めても「雇い止め」のリスクに晒(さら)され続ける。著者は、こうした勤務形態が広がった背景として公務員定数削減と財政悪化に伴う歳出削減をあげる。さらに、非常勤労働が既婚女性の家計補助的パート労働の延長線上と解釈されたため、仕事内容に即した待遇という原則が捨て置かれたと指摘する。

本書が提示する改善策は、非正規の待遇格差を禁止するなど法規制の強化である。それも重要だが、終身雇用・年功賃金・定年制ゆえに生産性と処遇の関連性が明確ではない日本の正社員という雇用慣行を変えない限り、根本的な解決は難しいのかもしれない。(日本評論社 1900円)

◇かんばやし・ようじ=1960年、東京都生まれ。地方自治総合研究所研究員。編著に『虚構の政治力と民意』。

 

Dallin – 「労働組合運動とはなにか」熊沢誠著 自立を求める営み

私たち「おじさん」は、ウザイと煙たがられても、労働組合の必要性を説き続けなければなりません——。
そんな若者・女性への思いを「主題の前置き」としつつも最終章でアツく語る労働研究の大家。「労働組合運動の復権」と題された講義を基に作られた本書は労働組合運動の歴史と現在の全体図を与えてくれる。
地味な労役を担う大多数のノンエリート。彼ら/彼女らが労働における不当な支配や操作からの自立を求める営みが労働組合運動だという。
その初期に位置づけられるのは19世紀半ば英国で生まれた職種別組合。熟練工たちによる労組は、企業に呑(の)ませる「標準賃金」や失業・死亡保険制度を整えた。19世紀末には、特定の技能をもたない港湾労働者の間で「誰でも入れる」一般労組が広まり最低保証賃金や就労斡旋(あっせん)も制度化される。だが、労組の発展はそれへの弾圧も強化。労組専門の探偵や「警備」会社が社会主義の根と共に労組運動を潰していきもする。
日本における労組運動も明治30(1897)年代から始まるが、会社への団体交渉やストライキはおろか、組織化自体なかなか許されない。許されたのはその後も日本に根づくことになる「縦の組合」=企業内組合。各企業の労組運動に部外者が介入しないからだ。大正期や戦後初期には激しい争議も起こったが、企業内組合の中で年功制度や労使協調が生まれていく。そして「新自由主義的改革」の中、労組組織率は下がり、駆け込み寺としての期待も失われていく。
「ストなし万歳」の現代。格差社会の中で生まれた「しんどい思いを抱える人々」は労組運動より「(鉢巻に組合旗みたいな“いかにもな運動”には引いてしまう)普通の市民」による脱原発運動や「(とにかく左翼っぽいものを嫌う)愛国者」たちの排外主義運動に向かっているようにも見える。労組運動の再生に健全なセーフティーネットと中間団体の回復の可能性を見出(みいだ)す著者の主張を読み直す意義は小さくない。(岩波書店 2100円)

◇くまざわ・まこと=1938年生まれ。甲南大名誉教授。専門は労使関係論。著書に『働きすぎに斃れて』など。

 

Taylor – [はたらく]課題を聞く 山崎元氏 転職しやすい社会に

——雇用不安が深刻化している。
雇用不安の引き金になった世界的な金融危機は、個人のカネへの欲求が暴走して引き起こされた。
その結果、派遣切りや雇い止めなどの問題が起きて、中高年の正社員と、職に就きにくい若者という「世代間の対立」と、正社員と非正規社員という「労働者間の対立」を浮かび上がらせた。
ただ、労働者派遣をなくせば問題が解決するわけではない。例えば、製造業への労働者派遣を禁止しても、職を失った人が、再就職しづらくなる恐れがある。一方で、企業が派遣労働者全員を正社員として雇うことができるわけでもなく、規制の強化で全体の雇用は減る。
——就職活動中の学生に安定志向が広がっている。
僕は12回転職したが、学生の時の就職活動でも、その後の転職活動でも、同じように「一生働ける会社に入りたい」と思っていたから気持ちは分かる。しかし現実には、自分と会社がベストの関係になれない場合も多い。ベストの組み合わせを探すためにも転職をしやすい社会にすべきだ。
——そのためには何が必要か。
正社員の解雇の仕組みを整備すべきだ。
例えば、企業が、何か月分かの給料を先に支払えば解雇できるなどのルールをはっきり決めた方がいい。企業側は、解雇に必要なコストが予測できるし、企業は、能力の割にコストがかかりすぎる中高年社員の代わりに若い人を雇うといった選択もしやすくなる。社員にとっても、ルールが明確な方がフェアだ。転職で不利になることが多い年金、退職金制度も変えるべきだ。
——年功序列による昇給や出世が難しい昨今、働く喜びを何に見いだせば良いか。
12回の転職で、収入が増えることもあれば減ることもあった。収入よりも職場の人間関係や自由度を重視したからだ。働きがいとは、近くにいる人を喜ばせること。働いて給料を稼げば家族が喜ぶ。良い仕事をすれば同僚が喜ぶといったことで、特別なものではない。(聞き手・鎌田秀男)

 

 

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